ホンモノはのこる
クルマが好きなので日頃から雑誌やネットなどでさまざまな記事に触れているが、ついつい見てしまうのがネット記事の下にあるコメント欄だ。古い欧州車をテーマにした記事には特に多くのコメントが寄せられているように思う。
実際に乗っていた人、一度は乗ってみたいと望んでいる人、あの時買っていればよかったと後悔している人などさまざまだが、やはり内容はヨーロッパのヴィンテージカー特有の工業製品としての信頼性の無さについてのコメントが多い。
昨日読んだランチア・デルタHFインテグラーレ/エヴォルツィオーネⅡのコメント欄にも「所有期間の半分は修理に出していた」「維持費がすごくかかる」「エアコンがきかない」「ドアの内張りをはずしたら新聞紙が出てきた」などとにかく壊れる話がたくさん出てくる。
だがそれだけではなく、いかにこのクルマがすばらしいかと力説している方もいる。
実際この記事では1180万円で落札されたとある。約30年前のモデルで希少価値のあるクルマではあるが、なぜそれほどの高値で取引されているのだろうか?
それは「デザイン」だ。
クルマを買う時、ブランド、走行性能、燃費、工業製品としての信頼性、価格、利便性、サイズなどさまざまなことを考え比較するだろう。しかし、これらはすべて大切なことだが、つまるところ最初から最後までデザインで決まると私は考えている。少なくとも私はそうだ。
感性に訴えるデザイン
本物のデザインは時を超えて残る。クルマとして、工業製品としての出来は良くなくてもデザインが良ければその価値を保ち続けるどころか時の重みを得てますますその価値は磨かれ得も言われぬ魅力を獲得する。先述のランチア・デルタがそうだ。いくら壊れて修理費用が嵩んでも欲しいモノは欲しいのだ。
要は、デザインのツボを得さえることが大切で、むやみに曲線を多用したり複雑な造形とする必要はない。そして、どれだけ時代が進んでも人間がカッコいいと思うデザインの変化のスピードというのはもっとのんびりしているのではないか。その証拠に先ほどのランチア・デルタの例を挙げるまでもなく“ネオクラシック”と呼ばれるような1980~90年代のクルマには国内外問わずとても良いデザインが多い。良いデザインを見ると「欲しい」と思う。そして「欲しい」と思うのはデザインがよいからだ。
建築デザインもクルマのそれと似たところがある。さまざまな法規制や予算、施主の求める利便性などを満たしながらも自分なりにテーマをもち、少しでも良いデザインとすべく悪戦苦闘する。今年はコロナ禍にあって思うような活動ができない面もあったが、来年からもこの「欲しいと思うデザイン」を追求していきたい。
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