軸組の美しさ
福崎町で進めている、古民家再生工事が始まりました。このプロジェクトは、現在は使われていない、もともと医院として使用されていた建物を、地元のリフォーム会社が買い取り、リノベーション後に自社のショールームとして利用するというものです。
建物は築100年ほどと聞いていますが、最初に現地調査に行った時には、ところどころ屋根や外壁に傷みはあるものの、構造体である柱、梁はしっかりとしており、適切な耐震補強をすれば、元の日本建築としての良さをいかしたリノベーションが可能であると判断しました。
一旦、柱・梁のみを残した状態とするため、解体工事は外構も含めると2週間ほどかかる大がかりなものとなっていますが、いざ軸組と屋根架構が姿を現すと、その美しさ、力強さに、建物が元々持っていた生命力を感じます。この建物は、まだまだ現役で使えるのです。
元来、日本建築は、太くて丈夫な柱・梁を主体とすることで、余計な壁に左右されない柔軟性の高いプランを可能としてきました。ただ、より簡単な工事で家が建つようになり、その良さも失われてきました。
実際、このような立派な建物がどんどん取り壊されていく現実を見ていると、日本の建築文化を取り戻すのに、本当に今は瀬戸際なのだなと思います。
安いわりにはおいしく感じる食べ物、安いわりにはお洒落に見える服、安いわりには立派に見える家、もう何十年も、日本人はそのようなものを求めて生きてきました。そして、その影響でチープな感性でしか物事を考えたり捉えたりすることが出来なくなってしまいました。
本物はお金がかかります。そして、建築における本物とは、「スタンダードを極める」ということです。それは、伝統的な日本人の感性に裏打ちされた美であり、それをベースに現代的な間取りや設備を取り入れることです。本物の価値の分かる人は、この「スタンダード」の部分にこそお金をかけます。それをおろそかにすると、すべてが張りぼての、チープな感性だけが浮き彫りになります。
この建物は、これから4か月ほどかけて、ショールームという商業的な性質をもつ建物として再生されます。完成した時に、日本の伝統美をさらに広めていけるようなリノベーションとなっているよう頑張ります。
外から眺めると、まだ元の建物の原型をとどめていますが、よく見ると、既に外壁の一部がなくなっていたり、基礎廻りがすかすかになっていたりします。左隣の蔵も一緒に解体工事を進めていきます。
屋根は既存の瓦を残す計画としていますが、やはり長年の風雨に耐え切れず、補修しなければならないところもあります。
内部の解体は終わり、柱と梁の架構がむき出しとなっています。この状態が、最も建物本来の生命力を感じることができ、美しいと思います。現代の小奇麗な建物にはない、荒々しくも、無駄を排した空間です。
これらの太い柱、梁は一部は腐朽菌で朽ちており、取替えが必要ですが、それ以外は、しっかりと水平・垂直を保っています。耐震補強はしますが、やはり、元の躯体が丈夫で、しかもこれだけ大きな空間があるとなれば、内装などをやり替えると素晴らしい空間となります。大きな費用を投下する甲斐がありますね。
新築においても、最初に躯体・断熱性能がしっかりとした家を建てないと、数十年後のリノベーションの際、お金をかけてその家を住み継いでいこうという意欲は湧きにくいでしょう。
昔の建物なので、コンクリートの基礎は存在せず、これから配筋をして基礎を造っていくことになります。
その場所の地盤の強さにもよるのでしょうが、昔の建物は基礎がなくても現代まで残っているので不思議です。基礎があると、地震の際、地面からの力を柱や梁に伝えてしまうから、そうならないよう、あえて基礎をなくすことにより、昔の人は免震構造の考え方を先取りしていたのでしょうか。
昔、医院のトイレがあった辺りは解体がかなり進んでいました。この部分はレンガの基礎がありましたが、今回のリノベーションで不要となるので、すべて撤去します。
それにしても、街中での工事と違い、スペースに余裕があるので、廃棄物の仮置き場に困ることがないので助かります。
古民家リノベーションの醍醐味と言えば、やはり屋根架構でしょう。柱と梁が複雑に絡まり合う様子は圧巻です。
できるだけ、これらの良さを残しながら新しい感性を吹き込んだ空間として仕上げていきます。
このような案件の場合、伝統美と現代性のバランスをとることが建築家に求められる大きな役割となります。
この建物は土壁を漆喰で仕上げたものですが、解体すると、土壁の下地の木ずりが見えてきます。補強の必要のない部分はそのまま残し、断熱をほどこしたうえで仕上げをします。
古民家の現場は、古い工法を観察できる場でもあり、興味が尽きません。特に用事がなくても通ってしまいそうです。
解体中とはいえ、戸締りの観点から既存の窓は残していますが、リノベーション後には、すべて断熱性能の高いサッシに取り替えられます。
断熱性能を高めることにより、ヒートショックなど家の中で不幸が起きることを防ぐ確率が高まります。古い家は窓も多いので、それらをすべて取り替えるのは費用がかかりますが「断熱は、健康への投資」です。できる範囲で良いので、検討すると良いと思います。
屋根は部分的に雨漏りの跡があるのでが、瓦の補修で直せる見込みです。このように全面的にスケルトンにしてリノベーションするというのは、建物の劣化した部分が一目瞭然となり、その箇所の修繕が容易になることがメリットです。
このようなことから、戸建て住宅でもマンションでも、リノベーションが一定の規模の工事となる場合は、できるだけスケルトン化することをお勧めしています。
床をめくって解体すると、すべての部分で地面が見えています。最近の住宅ではないので当然ですが、ここからコンクリートのスラブを打設していきます。
この段階は、1階のレベルを設定したり、工事全体に関わる細かいことをたくさん決めていく必要があります。
斜めに木材が渡されているのは、解体中に建物が傾かないようにするための仮止め材です。
昔の大きな建物らしく、同じ敷地内に蔵があるので、こちらも事務所として再利用するためリノベーションします。結構建物が傾いているので、こちらは念入りに補強を入れる必要があります。
今回は、解体の様子を見て頂きました。一口に古民家と言っても、建物が大きくて立派であればあるほど、工事も大がかりになります。しかし、だからこそ現代の建物にはないスケール、ダイナミックさを感じることができます。日本の美というのは、世界の人たちからも関心が高まっているようです。これだけすばらしい空間に身を置くことができるのですから当然でしょう。
今こそ、このような古民家を保存し、再生するということを推進していくべきと思います。住めためであれ、民泊として利用するためであれ、古民家再生は、大きな可能性を秘めています。
とても古い家を相続したなど、古民家の利用でお悩みの方は、まずはご相談いただけると幸いです。
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