施主と一緒に探し出した敷地は、周囲が深い緑に覆われた高台にあり、その見下ろす先には大阪湾が広がっている。立地条件から、素晴らしい眺望を最大限、満喫できるように、全体のヴォリュームは21°振られている。
関西でも屈指の景観条例により保護された西宮市甲陽園目神山というエリアではあるが、社交的な夫婦が快適に暮らせるよう、プランに工夫がほどこされた木の家である。
玄関とリビングを一番眺望の楽しめる2階に配し、敷地の高低差を利用した、12mもの長さのスロープから直接アプローチできるようになっている。
この、ゲストルーム上部を貫き、道路から玄関までまっすぐにのびるスロープを渡る時、そのゆるやかな上昇により、この家のヴォリューム・高さ・壁・屋根といった各建築的要素を知覚でき、その先に広がる眺望への期待を高める動的なものであるのに対し、1階門扉から勝手口へと導くアプローチには、コンクリートの平板が敷かれ、植えられた樹々と、和室の横をゆったりと迂回して横切るという静的な空間で、上部のスロープとは対照的である。
2階に玄関とリビングを配置することにより、子供達も家に帰ると、自分の部屋に行く前にこの空間を通ることになる。つまり、子供達にとっても、半ば公共性を持つサロンのような空間となる。
1階には寝室・ゲストルーム・水廻りなどが配置されているが、そこへ至る階段に取付けられたモンドリアン風の格子など、この家の内的なシーンの連続に、いきいきとした特殊性を与えるディテールが施されている。ゲストルームの3畳の和室は、上部のスロープの梁が剥き出しになっており、その間に張られた和紙調半透過パネルから漏れる光、床の間横の縦長の窓や、地窓から射込む淡い光の効果で、落ち着きのある空間となっている。
外観は、木の質感を基調としたスカンジナビアデザイン(北欧デザイン)としており、外壁は杉板を木材保護着色塗料で染めたもので、浴室・洗面所のある1階平家部分のみ、調湿性に優れた珪藻土配合土壁仕上げとした。
外観で印象深いのは、見る角度によって、シャープで力強い印象を与えたり、親密でどこかユーモラスなイメージがあったりと変化に富み、“絶妙な不均衡”ともいえる佇まいを見せていることである。
高台の家の完成後、22年を経た姿とリノベーションの様子をレポートしています。
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